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東京高等裁判所 平成8年(行ケ)128号 判決

静岡県富士市上田端1539番地

原告

石川新

訴訟代理人弁理士

吉井昭栄

吉井剛

吉井雅栄

東京都千代田区霞が関3丁目4番3号

被告

特許庁長官 荒井寿光

指定代理人

米田昭

幸長保次郎

小川宗一

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第1  当事者の求めた判決

1  原告

特許庁が、平成7年審判第15507号事件について、平成8年3月22日にした審決を取り消す。

訴訟費用は被告の負担とする。

2  被告

主文と同旨

第2  当事者間に争いのない事実

1  特許庁における手続の経緯

原告は、昭和59年6月22日にした実用新案登録出願(実願昭59-94082号)の一部を平成2年11月13日に分割して新たな実用新案登録出願(実願平2-119211号)とした後、同月14日に同出願を特許出願に変更して、名称を「柱包装紙」とする発明(以下「本願発明」という。)につき特許出願をした(特願平2-307945号)が、平成7年5月30日に拒絶査定を受けたので、同年7月20日、これに対する不服の審判請求をした。

特許庁は、同請求を平成7年審判第15507号事件として審理したうえ、平成8年3月22日、「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決をし、その謄本は、同年5月30日、原告に送達された。

2  本願発明の要旨

柱を掩蔽する幅を有する長尺のフィルム若しくは紙などの包装紙の一側縁の外側に接着層を内面に形成した接着テープを片側だけ包装紙に接着して反対片側を突出状態に付設し、この接着テープの突出部内側の接着層を露出状態に設け、接着テープの背面を接着テープの接着層が重ねられても剥離できる面に形成し、かかる接着テープ付包装紙を側縁が接着テープに重ならない状態に且つ接着テープの貼着側に略二つ折りに折り畳み、この折り畳んだ長尺の接着テープ付包装紙を接着テープの露出接着層が内側に位置する接着テープの前記の剥離できる面に重合する状態で巻取棒体に巻回したことを特徴とする柱包装紙。

3  審決の理由の要点

審決は、別添審決書写し記載のとおり、本願発明は、いずれも本願出願前に国内において頒布された実願昭56-79521号出願(実開昭57-190762号)のマイクロフィルム(以下「第1引用例」といい、そこに記載された考案を「第1引用例発明」という。)、実公昭56-38117号公報(以下「第2引用例」といい、そこに記載された考案を「第2引用例発明」という。)及び実願昭52-5381号出願(実開昭53-103460号)のマイクロフィルム(以下「第3引用例」といい、そこに記載された考案を「第3引用例発明」という。)に記載された考案(発明)に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものと認められ、特許法29条2項の規定により特許を受けることができないとした。

第3  原告主張の審決取消事由の要点

審決の理由中、本願発明の要旨、各引用例の記載事項並びに本願発明と第1引用例発明との一致点及び相違点の認定(審決書2頁2行~8頁9行)は認める。相違点についての判断のうち、第1引用例発明において、「柱に仮貼着するための未乾燥糊をシートの長手方向の一側縁に塗着してあるのは、その装着を容易に迅速確実に行うことができるように装着作業の便宜上からのものと認められる」(審決書9頁3~7行)とした点、第2引用例に、相違点に係る本願発明の構成が記載されているとの点(同9頁15行~12頁17行)は認め、その余は争う。

審決は、相違点についての判断を誤った結果、本願発明が第1~第3引用例発明に基づいて当業者が容易に発明することができたとの結論に至ったものであるから、違法として取り消されなければならない。

1  相違点の判断の誤り(1)

審決は、本願発明と第1引用例発明との相違点、すなわち、「本願発明においては、包装紙の一側縁の外側に接着層を内面に形成した接着テープを片側だけ包装紙に接着して反対片側を突出状態に付設し、この接着テープの突出部内側の接着層を露出状態に設け、接着テープの背面を接着テープの接着層が重ねられても剥離できる面に形成し、かかる接着テープ付包装紙を側縁が接着テープに重ならない状態に且つ接着テープの貼着側に略二つ折りに折り畳み、この折り畳んだ長尺の接着テープ付包装紙を接着テープの露出接着層が内側に位置する接着テープの前記の剥離できる面に重合する状態で巻取棒体に巻回しているのに対し、第1引用例に記載された発明では、そのような構成を備えるものではない点」(審決書7頁15行~8頁9行)につき、第1引用例発明の保護養生シートにおいて、「柱に仮貼着するための未乾燥糊をシートの長手方向の一側縁に塗着してあるのは、その装着を容易に迅速確実に行うことができるように装着作業の便宜上からのものと認められる」(同9頁3~7行)とした上で、「シートの装着に際し、その一側縁を柱に仮貼着することなく装着できるのであれば、柱に仮貼着するための一側縁の未乾燥糊は当然に省略しうるところであり、未乾燥糊をシートの両側縁に塗着するか、一側縁のみに塗着するかは、当業者が装着作業の便宜を考慮し必要に応じて適宜設定しうる程度の事項と認められる」(同9頁7~14行)と判断しているが、誤りである。

(1)  審決の上記判断は、被包装物の周囲を包装紙で包装する方法としては、少なくとも、〈1〉第1引用例のように、包装紙の両側縁に接着剤を塗着しておき、まず包装紙の一側縁を被包装物の表面に仮固定し、次いで包装紙の他側縁を一側縁上に接着して包装する方法(以下「包装方法a」という。)と、〈2〉本願発明のように、包装紙の一側縁のみに接着剤を塗着しておき、まず接着剤が塗着されていない包装紙の一側縁を被包装物表面に置き、次いで接着剤が塗着された包装紙の他側縁を一側縁上に接着して包装する方法(以下「包装方法b」という。)とが存在し、本願出願当時、そのいずれもが慣用の手段であったことを前提とするものであるが、包装方法a及びbが、本願出願当時、慣用手段という程度に至っているということはできないから、審決の判断は誤りである。

(2)  本願発明は、新築や改築などに際して、新しい高価な柱が作業者などによって汚されないよう簡単に掩蔽することのできる柱包装紙を内容とするものであるが、柱に包装紙を巻き付ける際、柱表面に接着剤が付着するとシミが生じて柱を台無しにするので、柱表面に直接接着剤を付着するような包装紙は高級な柱の柱包装紙としては使いものにならないのであり、接着剤の塗着を一側縁のみとして、柱を包装した際にその四面いずれにも一切接着剤を付着させることのないよう構成した点に本願発明の画期的な創作ポイントがある。

第1引用例発明のように柱表面に接着剤が付着してしまう構成の発明を引用し、接着剤をシートの両側縁に塗着するか、一側縁のみに塗着するかは装着作業の便宜を考慮して適宜設定しうる程度の事項であるとした審決の判断は、この点を考慮しておらず、誤りである。

2  相違点の判断の誤り(2)

審決は、「第2引用例に記載された発明は壁面の保護養生に関するものであるとはいえ、建築資材を覆い保護する機能においては本願発明や第1引用例に記載された発明と軌を一にすることは明らかなところであり、第2引用例に記載された壁面の保護養生フィルムに関する技術を柱の包装紙に採用することに格別な困難性は認められない」(審決書12頁18行~13頁4行)と判断したが、誤りである。

(1)  審決は、上記判断において、第2引用例発明の保護養生フィルムを包装シートと把握しているが、当該発明の保護養生フィルムは壁面の養生フィルムセットであって、あくまで平面状に貼着するものであり、包装シートではない。したがって、この発明に係る技術を、第1引用例発明の柱の4面を巻回して包装する技術に採用することは当業者にとって容易であるはずがなく、第2引用例発明を第1引用例発明に適用することに格別の困難性が認められないとする審決の判断は誤りである。

(2)  第2引用例には、フィルムを折り畳んで小巾の長尺物とする際に、その折り畳みの重膜数を2~8程度となすことが記載されており、また、その図面第3図は、フィルムを接着テープの貼付側へ折り返した例ではあるが、第2引用例には、本願発明の「接着テープ付包装紙を側縁が接着テープに重ならない状態に且つ接着テープの貼着側に略二つ折りに折り畳」む構成が開示されているとはいえない。

すなわち、本願発明の上記の構成は、フィルムの左右厚を同厚に近づけるためのものであるが、二つに折ることに加えて、折る方向が接着テープの貼着側であることが加わって初めて左右厚が同厚に近づくのであり、二つに折ることと接着テープの貼着側に折ることとは一体不可分なのである。第2引用例が、折り畳みの重膜数を2~8程度とした記載は、一般に長尺の小巾フィルムとして巻回可能となる限界の折り畳み重合数が8程度であることを念のため示しつつ、折り畳み重合数は2~8程度のいずれでもよいことを記載したにすぎず、図面第3図は四つ折りの例であって二つ折りではないし、さらに、フィルムの左右厚を同厚に近づけるという効果を示唆する記載は第2引用例に全く存在しない。したがって、第2引用例に本願発明の上記の構成が開示されているということはできない。

そうすると、本願発明の「接着テープ付包装紙を側縁が接着テープに重ならない状態に且つ接着テープの貼着側に略二つ折りに折り畳み」という構成が第2引用例に記載されているとの審決の判断は誤りである。

第4  被告の反論の要点

審決の認定・判断は正当であり、原告主張の取消事由はいずれも理由がない。

1  取消事由1(相違点の判断の誤り(1))について

(1)  一般に、被包装物の周囲を包装紙で包装する方法として、包装方法aと包装方法bとが存在し、本願出願当時、そのいずれもが当業者における周知慣用の技術手段であったから(包装方法aにつき第1引用例、乙第3、第4号証、包装方法bにつき乙第1、第5、第6号証)、この点についての審決の判断に誤りはない。

(2)  包装方法aは、容易かつ迅速確実に包装を行うことができ、作業性に優れているが、包装方法bは、接着剤が塗着されていない包装紙の一側縁を被包装物に固定しつつ、他側縁を1側縁上に接着して包装する必要が生じ、作業性において包装方法aに劣る。

審決は、本願発明(包装方法b)と第1引用例発明(包装方法a)との相違点を、上記本願出願当時の技術水準を参酌して、シートの装着作業の便宜の観点から、「シートの装着に際し、その一側縁を柱に仮貼着することなく装着できるのであれば、柱に仮貼着するための一側縁の未乾燥糊は当然に省略しうるところであり、未乾燥糊をシートの両側縁に塗着するか、一側縁のみに塗着するかは、当業者が装着作業の便宜を考慮し必要に応じて適宜設定しうる程度の事項と認められる」(審決書9頁7~14行)と判断したものであって、その判断に誤りはない。

2  取消事由2(相違点の判断の誤り(2))について

(1)  第2引用例発明が壁面の養生フィルムセットであって、平面状に貼着するものであることは認める。

しかしながら、審決は、本願発明と第1引用例発明とを対比して、「両者は『柱を掩蔽する幅を有する長尺のフィルム等の包装紙の側縁に接着層を設け、包装紙を接着層が内側となるように巻回してなる柱包装紙』である点で一致し」(審決書7頁9~12頁)と認定したうえ、本願発明と第1引用例発明との相違点に係る構成のうち、シートの折り畳み巻き取り構造に係る技術事項について技術評価するために、接着テープ付長尺フィルムをロール状に巻き取る技術である点で第1引用例と共通する第2引用例を引用して、その技術事項に限って判断したものである。したがって、第2引用例発明自体を本願発明と比較することに意味はなく、この点についての審決の判断に誤りはない。

(2)  本願発明が、接着テープ付包装紙を側縁が接着テープに重ならない状態にかつ接着テープの貼着側に略二つ折りに折り畳むことにより、フィルムの左右厚が同厚に近づいて、巻回を良好にする作用効果を有することは認める。

しかしながら、第2引用例(甲第2号証)には、「接着テープを貼付された長尺フイルムは、その巾方向に折りたゝみ小巾の長尺物とする。その折りたゝみの際、上記貼付テープにフイルムが重ならないようにする必要があり、かくすることにより、養生フイルムセツトから引き出したフイルムは、接着テープに全く接着していないから、剥離の手間を要することなく極めて容易に元の巾まで広げることができる。上記折りたゝみの重膜数は通常2~8程度であり、・・・上記の如く折りたたまれたフイルムを、その長手方向にフイルムの表面を内側にして巻くことによりフイルムロールが得られる。・・・必要に応じ巻芯の上に巻くのもよい。」(同号証4欄14~30行)との記載があり、また、「第3図は、本考案の別の一実施例を示すものであり、接着テープが貼付された面の側に折りたたまれた小巾のフイルムが巻かれたフイルムロールを示す」(同6欄13~16行)との記載があって、図面第3図には、接着テープ付フィルムを側縁が接着テープに重ならない状態でかつ接着テープが貼付された面の側に四つ折りに折り畳んだものが示されている。

このフィルムを四つ折りに折り畳んだものは、上記の折り畳みの重膜数の2~8程度の実施の態様の具体的な一例であり、第2引用例発明には、当然にフィルムを二つ折りや八つ折りに折り畳んだ実施の態様も含まれているのである。第2引用例発明における「フイルム」、「接着テープが貼付された面の側」は、それぞれ本願発明における「包装紙」、「接着テープの貼着側」に相当するから、第2引用例には、接着テープ付包装紙を側縁が接着テープに重ならない状態で、かつ接着テープの貼着側に二つ折りに折り畳んだシートの折り畳み構造が開示されているということができる。

そして、第2引用例に開示された種々の態様のうち、接着テープ付包装紙を側縁が接着テープに重ならない状態で、かつ接着テープの貼着側に二つ折りに折り畳んだものの包装紙の左右厚は、本願発明と同様、同厚に近づけられていると解されるから、本願発明は、第2引用例発明の実施の態様の1つが奏する作用効果(巻回を良好にする作用効果)を追認し、包装紙の折り畳み方向と折り畳み回数として、第2引用例発明の実施の態様の1つである接着テープ付包装紙を側縁が接着テープに重ならない状態で、かつ接着テープの貼着側に二つ折りに折り畳んだものを選択し、この折り畳み巻き取り構造を第1引用例発明の包装紙に適用したものにすぎない。

したがって、審決のこの点についての判断に誤りはない。

第5  証拠

本件記録中の書証目録の記載を引用する。書証の成立については、いずれも当事者間に争いがない。

第6  当裁判所の判断

1  取消事由1(相違点の判断の誤り(1))について

(1)  本願出願前に国内において頒布された実願昭55-117943号出願(実開昭57-40551号)の明細書および図面の内容を撮影したマイクロフィルム(乙第3号証)には、「表面側がノンスリツプ加工をした難燃性シートで、裏面側が弾性シートで構成された二層シートであつて、裏面の両端部に両面接着テープが付設されたことを特徴とする養生シート」(同号証明細書1頁実用新案登録請求の範囲)が記載されており、その図面第4図には当該養生シートで柱を包装した実施例が示されているところ、これらの記載及び図面によれば、同マイクロフィルムには、まず養生シートの一側縁を両面テープで柱に接着し、次いで他側縁を一側縁上に両面テープで接着して柱を包装する方法が示されていると認められる。また、本願出願前に国内において頒布された実願昭55-188585号出願(実開昭57-111943号)の明細書および図面の内容を撮影したマイクロフィルム(乙第4号証)には、「柱材の外周を被覆すべき長尺紙(1)の一面の長さ方向に沿った両側部に粘着材を塗布し、長尺紙(1)の他面には合成樹脂フイルム(3)を重合した建築用柱材の保護シート」(同号証明細書1頁実用新案登録請求の範囲)が記載されており、その考案の詳細な説明には、「この考案の保護シートは上記の構成よりなり、使用するには巻いたものを巻戻して被覆すべき柱材(10)の長さにカットするとともに、一側部の接着部(2)を柱材(10)の長さ方向に沿って接着し(第4図)、次いで柱材(10)の周方向に沿って巻付けて他側部の接着部(2)をシートに重合接着すれば柱材(10)の全長にわたり被覆することができる」(同5頁13行~6頁1行)との記載がある。

他方、本願出願前に国内において頒布された実願昭56-123164号出願(実開昭58-27164号)の明細書および図面の内容を撮影したマイクロフィルム(乙第1号証)には、「紙、合成紙、合成樹脂フィルム、セロハン等の包装シートの一側辺に不乾性接着層を設け、同接着層に離型紙を仮接着して接着封緘テープ部を連設せしめ、同封緘テープ部下辺部の両側縁より切目あるいはミシン目等の切開部を適宜施して成る接着封緘テープを連設した包装シート」(同号証明細書1頁実用新案登録請求の範囲)が記載されており、その考案の詳細な説明には、「本考案の接着封緘テープの使用は、・・・ロール状に巻いた被包装物(10)を包装シート(1)の裏(1b)の接着封緘テープ部(6)の対辺一側端縁部に平行に載せて包装シート(1)の切開部(8)、(8)の線まで捲き・・・次いで接着封緘テープ(6)の離型紙(5)を剥離し包装シート裏(1b)の一側縁テープ部(2b)に設けた接着層(4)により包装シート(1)の中央部に貼着する」(同3頁10行~4頁1行)との記載があり、また、本願出願前に国内において頒布された実願昭46-82190号出願(実開昭48-37288号)の明細書および図面の内容を撮影したマイクロフィルム(乙第5号証)には、「包装用フイルムの被接合一端縁若しくは両端縁に片面接着テープを、この接着剤塗布面を長手方向に分けた一半部が該被接合端縁の外方に突出するようその他半部のみを重合一体化させ、前記接着剤塗布面の突出状一半部には剥離紙を重合したことを特徴とする包装用フイルム」(同号証明細書1頁実用新案登録請求の範囲)が記載されており、その考案の詳細な説明には、「上記包装用フイルム(1)を用いて反物などを包装するに際して、片面接着テープ(2)を被接合一端縁(1)’のみに取付けている場合には第3、4図に示すよう、反物(4)の外周面にその包装用フイルム(1)を片面接着テープ(2)付の被接合一端縁(1)’が外側になり、他端縁(1)”が内側になるよう巻きつけ、しかして剥離紙(3)を片面接着テープ(2)より剥がしとつて接着剤塗布面(2)’の突出状一半部(2’A)を現出させるとともにこの一半部(2’A)を被接合他端縁(1)’の近傍部に接着させればよいのである。」(同2頁12行~3頁1行)との記載があり、さらに、本願出願前に国内において頒布された実願昭55-15878号出願(実開昭56-118847号)の明細書および図面の内容を撮影したマイクロフィルム(乙第6号証)には、「コイル巻きの包装紙の片側又は両端に粘着部を取り付けた粘着部付き包装紙」(同号証明細書1頁実用新案登録請求の範囲)が記載されており、その図面第5図には、長尺品を縦方向に包装し包装紙の一側縁に設けた粘着部で包装紙の他側縁に接着する包装態様が示されている。

以上によれば、第1引用例のほか、乙第3、第4号証の各マイクロフィルムには包装方法aが、乙第1、第5、第6号証の各マイクロフィルムには包装方法bが示されていることが明らかであり、この事実によれば、本願出願当時、包装方法a及び包装方法bのいずれもが周知慣用の技術であったことを認めることができるから、右各技術が慣用手段という程度に至っていないとする原告の主張は失当である。

(2)  原告は、また、本願発明は、接着剤の塗着を一側縁のみとして、柱を包装した際にその四面いずれにも一切接着剤を付着させることのないよう構成した点に画期的な創作ポイントがあり、第1引用例のように柱表面に接着剤が付着してしまう構成を引用例とし、接着剤をシートの両側縁に塗着するか、一側縁のみに塗着するかは装着作業の便宜を考慮して適宜設定しうる程度の事項であるとした審決の判断は、この点を考慮しておらず、誤りであると主張する。

しかしながら、前示のとおり、包装方法a、同bは、本願出願当時そのいずれもが周知慣用の技術であったと認められるところ、包装方法aが、被包装物に包装紙を巻く際その一側縁を被包装物の表面に仮固定するために作業性に優れる反面、被包装物に接着剤が付着してこれを汚す短所を有し、他方、包装方法bが上記の仮固定を経ないために作業性において劣る反面、被包装物に接着剤が付着してこれを汚すことはないという長所を有すること、そして、その作業性の優劣と被包装物に対する接着剤付着の有無による長短は、包装方法a、同bにおいて互いに逆となることは、包装紙における接着剤の位置並びに各包装方法からみて明らかなところである。

そうすると、包装方法a及び同bはいわば表裏の関係にあり、専ら作業性の良さに着目して包装方法aを採用するか、専ら被包装物に接着剤が付着してこれを汚すことはないという長所に着目して包装方法bを採用するかは当業者において適宜選択しうる程度のものということができ、また、包装方法aを採用した場合であれば被包装物に接着剤が付着してこれを汚すことを、包装方法bを採用した場合であれば作業性に劣ることを、それぞれ忍ばなければならないことも明らかである。

そうであれば、審決が、包装方法aを採用した第1引用例発明を引用し、これと包装方法bを採用した本願発明との包装方法に係る相違点について、装着作業の便宜の観点から、当業者において適宜設定しうる程度の事項であると判断した点に、原告主張のような本願発明の構成や作用効果を考慮しなかった誤りがあるということはできず、原告の上記主張は理由はない。

2  取消事由2(相違点の判断の誤り(2))について

(1)  第2引用例発明が壁面の養生フィルムセットであって、平面状に貼着するものであることは当事者間に争いがない。

原告は、このことから、この考案に係る技術を、第1引用例の柱の4面を巻回して包装する技術に用いることは当業者にとって容易ではなく、第2引用例発明を第1引用例発明に適用することに格別の困難性が認められないとする審決の判断は誤りであると主張する。

しかしながら、本願発明と第1引用例発明との相違点に係る構成、すなわち、「本願発明においては、包装紙の一側縁の外側に接着層を内面に形成した接着テープを片側だけ包装紙に接着して反対片側を突出状態に付設し、この接着テープの突出部内側の着層を露出状態に設け、接着テープの背面を接着テープの接着層が重ねられても剥離できる面に形成し、かかる接着テープ付包装紙を側縁が接着テープに重ならない状態に且つ接着テープの貼着側に略二つ折りに折り畳み、この折り畳んだ長尺の接着テープ付包装紙を接着テープの露出接着層が内側に位置する接着テープの前記の剥離できる面に重合する状態で巻取棒体に巻回しているのに対し、第1引用例に記載された発明では、そのような構成を備えるものではない点」(審決書7頁15行~8頁9行)にっき、この本願発明の構成が、実質的に第2引用例に記載されているとの審決の認定(同9頁15行~12頁17行)は、原告も認めるところである。

審決は、この認定を前提として、「第2引用例に記載された発明は壁面の保護養生に関するものであるとはいえ、建築資材を覆い保護する機能においては本願発明や第1引用例に記載された発明と軌を一にすることは明らかなところであり、第2引用例に記載された壁面の保護養生フィルムに関する技術を柱の包装紙に採用することに格別な困難性は認められない。」(同12頁18行~13頁4行)と判断したのであるから、審決は、本願発明と第1引用例発明との相違点である側縁に接着テープを設けた長尺のフィルムの折り畳み巻き取り構造に係る技術事項について判断するにつき、側縁に接着層を設けた長尺のフィルムをロール状に巻き取る技術である点で本願発明と共通する第2引用例記載の技術を引用したことが明らかである。

そうであれば、第2引用例記載の技術は、建築資材を覆い保護する機能を有する保護材に関するものとして、本願発明及び第1引用例発明とその技術分野を共通にするものであるということができるから、第2引用例記載の技術を第1引用例発明に適用することが当業者にとって容易であると認められ、その技術が柱の4面を巻回して包装するものである点についてまで共通しなければならないとする理由はない。

したがって、原告の上記主張は失当である。

(2)  本願発明が、接着テープ付包装紙を側縁が接着テープに重ならない状態にかつ接着テープの貼着側に略二つ折りに折り畳むことにより、フィルムの左右厚が同厚に近づいて、巻回を良好にする作用効果を有することは、当事者間に争いがない。

ところで、原告は、上記の作用効果を奏するために、フィルムを二つに折ることと接着テープの貼着側に折ることとは一体不可分であるところ、第2引用例には、フィルムを二つに折るという要件と接着テープの貼着側に折るという要件が一体不可分な構成として示されておらず、本願発明の「接着テープ付包装紙を側縁が接着テープに重ならない状態に且つ接着テープの貼着側に略二つ折りに折り畳」む構成が開示されているとはいえないと主張する。

しかしながら、第2引用例の「第3図は、本考案の別の一実施例を示すものであり、接着テープが貼付された面の側に折りたたまれた小巾のフイルムが巻かれたフイルムロールを示す」(甲第2号証6欄13~16行)との記載及び図面第3図が、接着テープ付フィルムを接着テープが貼付された面の側に折り畳む実施例を示していること、また、図面第3図は四つ折りの例であるが、第2引用例の「接着テープを貼付された長尺フイルムは、その巾方向に折りたゝみ小巾の長尺物とする。その折りたゝみの際、上記貼付テープにフイルムが重ならないようにする必要があり、かくすることにより、養生フイルムセツトから引き出したフイルムは、接着テープに全く接着していないから、剥離の手間を要することなく極めて容易に元の巾まで広げることができる。上記折りたゝみの重膜数は通常2~8程度であり、・・・上記の如く折りたたまれたフイルムを、その長手方向にフイルムの表面を内側にして巻くことによりフイルムロールが得られる」(同号証4欄14~27行)との記載が、フィルムの側縁が接着テープに重ならないように略二つ折りにする実施例を包含することはいずれも明らかであり、このことに、第2引用例記載の考案における「フィルム」、「接着テープが貼付された面の側」が、それぞれ本願発明の「包装紙」、「接着テープの貼着側」に相当するものであることを併せ考えれば、第2引用例には、本願発明の「接着テープ付包装紙を側縁が接着テープに重ならない状態にかつ接着テープの貼着側に略二つ折りに折り畳む」という折り畳みの構造が開示されていることは明らかである。そして、このような折り畳み構造が、フィルムを左右同厚に近づけることにより、その巻回を良好にする作用効果を奏することは、第2引用例に特に明示されていなくとも、当業者にとって自明の事柄と認められる。

したがって、本願発明の「接着テープ付包装紙を側縁が接着テープに重ならない状態に且つ接着テープの貼着側に略二つ折りに折り畳」む構成が第2引用例に開示されているとした審決の判断に誤りはなく、原告のこの点についての主張も失当である。

3  以上のとおり、原告主張の審決取消事由1及び2はいずれも理由がなく、その他審決にはこれを取り消すべき瑕疵は見当たらない。

よって、原告の請求を棄却することとし、訴訟費用の負担について、行政事件訴訟法7条、民事訴訟法89条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 牧野利秋 裁判官 石原直樹 裁判官 清水節)

平成7年審判第15507号

審決

静岡県富士市上田端1539番地

請求人 石川新

新潟県長岡市城内町3丁目5番地8

代理人弁理士 吉井昭栄

新潟県長岡市城内町3丁目5番地8 吉井特許事務所

代理人弁理士 吉井剛

新潟県長岡市城内町3-5-8 吉井特許事務所

代理人弁理士 吉井雅栄

平成2年特許願第307945号「柱包装紙」拒絶査定に対する審判事件(平成4年7月8日出願公開、特開平4-189763)について、次のとおり審決する。

結論

本件審判の請求は、成り立たない。

理由

本件出願は、昭和59年6月22日に出願された実願昭59-94082号出願の一部を、平成2年11月13日に分割して新たな実願平2-119211号出願とした後に、更に平成2年11月14日に特許出願に変更したものであって、その発明の要旨は、補正された明細書及び図面の記載からみて、特許請求の範囲に記載されたとおりの次のものにあると認める。

「柱を掩蔽する幅を有する長尺のフィルム若しくは紙などの包装紙の一側縁の外側に接着層を内面に形成した接着テープを片側だけ包装紙に接着して反対片側を突出状態に付設し、この接着テープの突出部内側の接着層を露出状態に設け、接着テープの背面を接着テープの接着層が重ねられても剥離できる面に形成し、かかる接着テープ付包装紙を側縁が接着テープに重ならない状態に且つ接着テープの貼着側に略二つ折りに折り畳み、この折り畳んだ長尺の接着テープ付包装紙を接着テープの露出接着層が内側に位置する接着テープの前記の剥離できる面に重合する状態で巻取棒体に巻回したことを特徴とする柱包装紙。」

これに対し、原査定の拒絶の理由に引用された本願出願前に国内において頒布された実願昭56-79521号出願(実開昭57-190762号)のマイクロフィルム(以下、「第1引用例」という。)には、建築柱の太さ巾に合わせて裁断する適当厚さの長尺シートに剥離加工すると共に、その長手方向の一側縁に柱に仮貼着する未乾燥糊を塗着し、そして他側縁に該シートの端部を重合貼りする未乾燥糊を塗着して、ロール状に巻装してなり、その使用時には必要長さ巻き戻し裁断して建築柱に装着するものであり、長尺シートの巻戻し、未乾燥糊の貼着部や柱と貼着シートとの貼着部も容易に剥離できるようになした建築柱の保護養生シートが記載され、同じく本願出願前に国内において頒布された実公昭56-38117号公報(以下、「第2引用例」という。)には、「…………長尺フィルムの裏面に}片面接着性テープをその巾の約半分だけ前記フィルムの耳端に沿って貼布し、前記テープを貼付した部分には重ならないように前記フィルムをその巾方向に折り込みかつその長手方向に前記フイルムの表面を内側にして巻いてなるフィルムロールを、フィルム引出部にカッターを有する箱に収納した養生フィルムセット。」(実用新案登録請求の範囲の項)、「……予め紙の片方の耳端に接着テープをその巾の約半分だけ貼着した養生紙を長尺方向に巻いた紙ロールを…箱に収納した養生紙セットも提案されている。」(公報第1頁第2欄17行乃至20行)、「本考案に用いられる片面接着テープとは、和紙テープ、セロハンテープ、ビニルテープ、ガムテープ等片面にのみ接着剤が塗布された通常用いられているものである。接触によりテープの裏面と表面との接着が起つても剥離が容易となるように片面にのみ接着剤の塗布されたものが用いられる。」(公報第2頁第3欄38行乃至44行)、「本考案に用いられるフィルムロールの調整は、先ず、前記長尺フィルムの裏面にその耳端に沿って、上記接着テープをその巾の約半分だけ貼布する。従って接着テープは巾約1~3cm程度フィルムの耳端からのび出ており、この部分の接着性によって、養生フィルムセットから引き出したフィルムを壁面にワンタッチで接着させることができる。」(公報第2頁第4欄2行乃至9行)、「…………接着テープを貼布された長尺フィルムは、その巾方向に折りたゝみ小巾の長尺とする。その折りたゝみの際、上記貼布テープにフィルムが重ならないようにする必要があり、かくすることにより、養生フィルムセットから引き出したフィルムは、接着テープに全く接着していないから、剥離の手間を要することなく極めて容易に元の巾まで広げることができる。上記折りたゝみの重膜数は通常2~8程度であり、……上記の如く折りたたまれたフィルムを、その長手方向にフィルムの表面を内側にして巻くことによりフィルムロールが得られる。……必要に応じ巻芯の上に巻くのもよい。」(公報第2頁第4欄14行乃至30行)及び「第3図は、本考案の別の一実施例を示すものであり、接着テープが貼付された面の側に折りたたまれた小巾のフィルムが巻かれたフィルムロールを示す。」(公報第3頁第6欄13行乃至16行)等の記載並びに図面、特に第3図、からみて、壁面を覆う巾を有する長尺のフィルム若しくは紙などの養生フィルムの耳端、即ち一側縁、の外側に、片面のみに接着剤を塗布し接着面を内面に形成した片面接着性テープ、即ち接着テープ、をその巾の約半分だけフィルムに接着して反対側の約半分を突出状態に付設し、この接着テープの突出部内側の接着面を露出状態に設け、接着テープの裏面、即ち背面、を接着テープの接着面が重ねられても剥離が容易となるように接着剤を塗布していない面に形成し、かかる接着テープ付フィルムを折りたたみの重膜数が2~8程度となるようにそして側縁が接着テープに重ならない状態で且つ接着テープが貼付された面の側に折りたたみ、小巾の長尺物となし、この折り畳んだ小巾で長尺の接着テープ付フィルムを接着テープの露出した接着面が内側に位置する接着テープの接着面の背面である接着剤を塗布していない面に重合する状態で巻芯に巻回してなる養生フィルムロールが記載されているものと認められる。

そこで、本願発明と第1引用例に記載された発明とを対比すると、第1引用例に記載された発明における「長尺シート」及び「建築柱の保護養生シート」は、本願発明の「長尺のフィルム若しくは紙などの包装紙」及び「柱包装紙」にそれぞれ相当するから、両者は、「柱を掩蔽する幅を有する長尺のフィルム等の包装紙の側縁に接着層を設け、包装紙を接着層が内側となるように巻回してなる柱包装紙」である点で一致し、次の点で相違する。

(相違点)

本願発明においては、包装紙の一側縁の外側に接着層を内面に形成した接着テープを片側だけ包装紙に接着して反対片側を突出状態に付設し、この接着テープの突出部内側の接着層を露出状態に設け、接着テープの背面を接着テープの接着層が重ねられても剥離できる面に形成し、かかる接着テープ付包装紙を側縁が接着テープに重ならない状態に且つ接着テープの貼着側に略二つ折りに折り畳み、この折り畳んだ長尺の接着テープ付包装紙を接着テープの露出接着層が内側に位置する接着テープの前記の剥離できる面に重合する状態で巻取棒体に巻回しているのに対し、第1引用例に記載された発明では、そのような構成を備えるものではない点。

次に、この相違点について検討するに、第1引用例に記載された発明の建築柱の保護養生シートは、長尺シートの長手方向の一側縁に柱に仮貼着する未乾燥糊を、他側縁に該シートの端部を重合貼りする未乾燥糊を塗着して、ロール状に巻装してなり、長尺シートの巻戻し、未乾燥糊の貼着部や柱と貼着シートとの貼着部も容易に剥離できるようになしたものであり、シートの長手方向両側縁に未乾燥糊を塗着しており、シートを建築柱の周囲に装着するに際して、シートをロール状から柱の長さに応じて必要長さを巻き戻して裁断し、その一側縁の未乾燥糊を柱に仮貼着した上で、シートを柱に巻き付けて、その他側縁の未乾燥糊をシートの上に貼着するものである。しかして、柱に仮貼着するための未乾燥糊をシートの長手方向の一側縁に塗着してあるのは、その装着を容易に迅速確実に行うことができるように装着作業の便宜上からのものと認められる。しかしながら、シートの装着に際し、その一側縁を柱に仮貼着することなく装着できるのであれば、柱に仮貼着するための一側縁の未乾燥糊は当然に省略しうるところであり、未乾燥糊をシートの両側縁に塗着するか、一側縁のみに塗着するかは、当業者が装着作業の便宜を考慮し必要に応じて適宜設定しうる程度の事項と認められる。

ところで、第2引用例には、壁面を覆う巾を有する長尺のフィルム若しくは紙などのフィルムの一側縁の外側に、片面のみに接着剤を塗布し接着面を内面に形成した接着テープをその巾の約半分(即ち、片側)だけフィルムに接着して反対側の約半分(即ち、反対片側)を突出状態に付設し、この接着テープの突出部内側の接着面を露出状態に設け、接着テープの背面を接着テープの接着面が重ねられても剥離が容易となるように接着剤を塗布していない面に形成し、かかる接着テープ付フィルムを折りたたみの重膜数が2~8程度となるようにそして側縁が接着テープに重ならない状態で且つ接着テープが貼付された面の側に折りたたみ、小巾の長尺物となし、この折り畳んだ小巾で長尺の接着テープ付フィルムを接着テープの露出した接着面が内側に位置する接着テープの接着面の背面である接着剤を塗布していない面に重合する状態で巻芯に巻回してなる養生フィルムロールが記載されており、第2引用例に記載された発明は、フィルムを折り畳んで小巾の長尺物とする際に、その折り畳みの重膜数を2~8程度となしているところであって、折り畳みの重膜数を2とし、フィルムの側縁が接着テープに重ならない状態で且つ接着テープが貼着された面の側に略二つ折りに折り畳んで小巾とした長尺物を包含する。そして、第2引用例に記載された発明の「接着面」及び「巻芯」は、それらの機能からみて、本願発明における「接着層」及び「巻取棒体」にそれぞれ該当する。したがって、相違点にかかる本願発明の構成と第2引用例に記載された発明とを比較すると、本願発明においては、接着テープの背面が接着テープの接着層が重ねられても剥離できる面として形成されているのに対し、第2引用例に記載された発明では、接着テープの接着層が重ねられても剥離が容易となるように接着剤を塗布していない面として形成されているものの、その面に格別な剥離処理や剥離加工を施しているのか定かでない。しかしながら、第1引用例においては、接着テープを用いるものではないけれども、未乾燥糊を塗着した部分がロール状に巻装された際に重合する部分は剥離加工がなされ、シートの巻き戻し時の剥離を容易に行い得るようになしており、更に、原査定の拒絶の理由において引用された実願昭52-5381号出願(実開昭53-103460号)のマイクロフィルム(以下、第3引用例という。)には、合成樹脂製透明薄膜の側周辺において、この薄膜を巻取ったときに内側となる面を接着面とし、これに接当する外側面には剥離処理を施して、接着面が巻取薄膜から容易に剥離して巻き戻すことができるようになした技術が記載されている。してみると、第2引用例に記載された発明における接着テープにおいて、接着剤を塗布していない面には格別な剥離処理や剥離加工を施しているのか定かでないけれども、接着テープの裏面と表面の接着層との剥離をより一層容易に且つ確実に行い得るようにすべく、第1引用例や第3引用例に記載されたような技術を採用して、接着剤を塗布していない面に剥離処理や剥離加工を施し、剥離できる面とすることは、当業者が必要に応じて適宜なしうる程度の単なる設計的事項にすぎないものである。よって、相違点にかかる本願発明の構成は、第2引用例に記載されているといえる。

そして、第2引用例に記載された発明は壁面の保護養生に関するものであるとはいえ、建築資材を覆い保護する機能においては本願発明や第1引用例に記載された発明と軌を一にすることは明らかなところであり、第2引用例に記載された壁面の保護養生フィルムに関する技術を柱の包装紙に採用することに格別な困難性は認められない。

したがって、第1引用例に記載された発明に第2引用例及び第3引用例に記載された発明を採用して本願発明のような構成となすことは、当業者が格別困難を伴うことなく容易に想到しうる程度のものと認められる。

そして、本願発明は全体構成としてみても第1引用例乃至第3引用例に記載された発明から予測できる作用効果の総和以上の顕著な作用効果を奏するものとは認められない。

したがって、本願発明は、第1引用例乃至第3引用例に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものと認められるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

よって、結論のとおり審決する。

平成8年3月22日

審判長 特許庁審判官 (略)

特許庁審判官 (略)

特許庁審判官 (略)

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